マンションの購入時に省エネ性能を重視する人が増え、ZEH-Mが注目を集めています。この記事では、そのなかでも特にNearly ZEH-M(ニアリー ゼッチ・マンション)について、条件や割合などを、環境・省エネルギー計算センター 代表取締役の尾熨斗(おのし) 啓介さんに伺い解説します。ZEH-Mを選ぶメリット・デメリットについても詳しく話を伺いましたので、ぜひ参考にしてください。
ZEH(ゼッチ)とは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語で、エネルギー収支をゼロ以下にすることを目指す住宅を指します。具体的には、断熱性能を高めたうえで、住宅で消費する一次エネルギー※量を削減。さらに太陽光発電などでエネルギーを創り出すことで、1年間の一次エネルギー消費量削減率(以降:削減率)100%以上を目指します。
※一次エネルギー:天然ガスや石油など、自然のままの形で得られるエネルギーのこと。この消費量には「暖冷房」「給湯」「換気」「照明」に使うエネルギーが含まれ、その他の家電による消費エネルギーは対象外。
Nearly ZEH-Mについて説明する前に、まずZEH-Mについて解説します。ZEH-MとはNet Zero Energy House Mansion(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション)の略語で、ZEHが主に住戸に対する評価であるのに対し、ZEH-Mでは、共用部を含む住棟(建物全体)を評価します。
そしてZEH-Mには、再エネを含む削減率の違いにより次の4種類があり、Nearly ZEH-Mはその一つで、1〜3階建てのマンションが目指すべき水準とされています。
「マンションは低層になるほど住戸数が少なくなり、必要となる一次エネルギー消費量も減少します。さらに、住戸数に対する太陽光発電設備を載せる屋根面積も、高層と比較すると広くなります。低層になるほど削減率を高めやすくなるため、階数に応じて目標とすべき水準に傾斜をつけているのです。
なお、Nearly ZEH-Mでは、断熱性能についてすべての住戸が断熱等性能等級5相当というZEH水準をクリアしなければならない一方、削減率については、『住棟全体を平均して75%以上100%未満の達成率』でよいとされています。
そのため、同じマンション内であっても、基準となる削減率を達成していない部屋が含まれる場合もあることを理解しておきましょう」(尾熨斗さん/以下同)
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「Nearly」が「ほとんど」を意味することからわかるように、Nearly ZEH-Mは、ZEH-Mの基準となる「再エネを加えて100%以上の削減率」に惜しくも届かない、以下のようなマンションを指します。
Nearly ZEH-Mでは、これらの目標を達成するために、具体的にどのような工夫が施されているのかを伺いました。
Nearly ZEH-Mに限らずZEH-Mシリーズでは、断熱性能を高めたうえで、全住戸で強化外皮基準=ZEH水準を達成しなければなりません。ZEH水準とは、具体的には断熱等性能等級5相当を指し、その内訳は地域ごとに目指す指標が決まっています。
「マンションの断熱性能を高めるために、どのような工法や素材で住棟を断熱するのかは、ZEHデベロッパーによって大きく異なります。一般的には、建物の室内側からウレタンフォームの断熱材を吹き付ける内断熱を施し、さらに開口部には複層ガラスの窓(複数のガラス板を重ねた構造の窓)と、断熱仕様のドアを採用して断熱性を高めます」
「ただし、それらのグレードはマンションによってさまざまです。どの程度コストを掛けるかが、販売価格に大きく影響を及ぼすためです」
「省エネについては、照明・給湯器・暖冷房・換気の4つの設備で評価されます。
照明については住棟の共用部や、住戸で廊下などにあらかじめ設置されているものについてはLEDが採用されます。給湯器はエコジョーズ(ガス潜熱回収型給湯器)などの高効率給湯設備が、ほか、暖冷房設備や換気設備についても、Nearly ZEH-Mの水準を満たすために、できるだけ省エネ効率が高い機器が選ばれ導入されます」
なおNearly ZEH-Mでは、一般的に断熱・省エネ性能を高める浴室設備が採用される傾向があり、高断熱浴槽を採用しているか否かも評価対象とされています。
ただし、どの程度の性能やグレードのものを導入するかはZEHデベロッパーにより異なるため、事前に確認することが重要です。
Nearly ZEH-Mでは再エネ(創エネ)を加えた削減率75%以上100%未満の達成が求められます。そのため太陽光発電設備を必ず設置する必要があります。ただし、どの程度の容量を採用するかはZEHデベロッパーに委ねられており、明確な基準はありません。
「屋根面積には限りがあるので、壁面も利用できると理想的です。しかし、壁面の太陽光設備は技術的に可能ではあるものの高額で、建築コストに見合わないのが現状です。将来的に技術が向上するのと同時にコストも下がれば、壁面も利用してより削減率を高められるようになると思います」
Nearly ZEH-Mに適合したマンションでは、全住戸でZEH水準である断熱等性能等級5を達成しています。マンションの建物自体に断熱が施されて魔法瓶のようになっているので、建物への熱の出入りが抑えられ、冬は暖かく夏は涼しい住まいを維持できます。
「室温の変動が小さくなるとヒートショックのリスクも抑えられるので、快適で健康的な生活を送れる点も大きなメリットです」
Nearly ZEH-Mは建物の断熱性能が高く、省エネ効率が高い設備に加えて太陽光発電設備も導入するため、光熱費の削減効果を得られることもメリットです。
とくにNearly ZEH-Mを目指すべきとされる1〜3階建ての低層マンションは、太陽光発電設備で発電された電力は全住戸に供給されるケースが多く、その場合高い光熱費削減効果が見込めます。
「2024年4月から、省エネ性能表示制度が開始されました。そのため、住戸ごとの省エネ性能ラベルがある場合は『目安光熱費』が記載されている可能性があります。ない場合も、パンフレットなどに目安として平均的な住戸の想定光熱費が掲載されているケースが多いので、確認してみるとよいでしょう」
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Nearly ZEH-Mで、各住戸に太陽光発電による電力が分配されている場合は、災害で停電した場合も一定の電力が供給され電力を維持できる可能性があります。
「ただし、蓄電までしているマンションは現状ほとんどありません。そのため昼間は一定の電力を確保できたとしても、夜間には太陽光発電の恩恵を受けられない点は理解しておきましょう」
Nearly ZEH-Mは、【フラット35】の金利引き下げメニューである【フラット35】Sの対象となっています。適用されると、当初5年間の金利が通常よりも0.25%〜0.75%引き下げられます。
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Nearly ZEH-Mに認定されていると、購入に際して「子育てグリーン住宅支援事業」の補助対象となる可能性があります。
この事業は、申請時に18歳未満の子どもがいる世帯や、夫婦のいずれかが39歳以下である世帯に対し、新築分譲マンションの購入においては40万円/戸が補助される制度です。諸条件については、公式サイトにてご確認ください。
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子育てグリーン住宅支援事業|国土交通省
一定の省エネ性能が備わった新築マンションを購入すると、住宅ローン控除(年末の住宅ローン残高の0.7%が13年間所得から控除される制度)を受けられます。Nearly ZEH-M もその対象となっており、さらにZEH水準省エネ住宅として、借入限度額が拡充されます。
「住宅ローン控除を受けるには、住棟全体ではなく、住戸ごとの『建設住宅性能評価書』または『住宅省エネルギー性能証明書』が必要です。これらの書類は、通常ZEHデベロッパーが取得し購入者に提供することが多いですが、事前に確認しておくと安心です」
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「今後、すべての新築マンションがZEH水準に移行していきますが、現状はまだ少数派です。そうすると、今後売却するときに、ZEHであるというのは中古市場で高く評価されると考えられます」
現在国では、2030年以降の新築住宅に対し、ZEH水準の確保を目指しています。そうすると、ZEH-Mでない物件は、今後「省エネ基準を満たさないマンション」とみなされ、評価が低くなる可能性があります。将来の資産価値を保ちたい場合は、ZEH-Mを選ぶことは賢明な判断といえそうです。
「Nearly ZEH-Mにするには断熱性能を高めたうえで、太陽光発電設備も載せる必要があります。そのため、ZEH仕様ではない一般的なマンションや、太陽光発電設備が必須ではないZEH-M Orientedよりは、販売価格が高くなる可能性があります」
「太陽光発電設備が必須のNearly ZEH-Mでは、耐用年数といわれる20年〜30年前後に設備の交換が必要になります。また、屋根の防水工事をするときも、太陽光発電設備があることにより手間が増えてしまいがちです。
さらに、発電した電力を実際に家庭や共用部で使えるようにするパワーコンディショナーと呼ばれる機器も、10年〜15年程度で更新が必要です。それらの結果、太陽光発電設備がないマンションよりも、修繕積立金が高くなる可能性があるでしょう」
「現在、国では、マンションにかかわらず、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、すべての建築物の省エネ性能を上げていこうという大きな流れがあります。2050年にはストック平均(中古物件の平均)でZEH・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)水準の省エネ性能の確保を目指しており、その達成に向け、2030年にはすべての新築建築物にZEH・ZEB水準を目指すとしています。
今後ZEHが標準となるのであれば、あらかじめZEH-Mにしておけば資産価値が高まりますし、購入者が住宅ローン控除で優遇を受けられるなど多くのメリットを得られます。そのように考えるZEHデベロッパーを中心に、今後もZEH-Mは増えていくと思います」
※ZEHデベロッパー:ZEH-M(ゼッチ・マンション)の普及に取り組む建築主となる事業者や建築請負会社
「同じマンション内であっても、住戸によって省エネ性能は異なります。一般的には、上下左右に部屋があるほうが、角部屋よりも省エネ性能は高くなります。Nearly ZEH-Mであっても、購入する住戸が基準のエネルギー消費削減率を満たしているとは限らないということです。
性能が大きく乖離(かいり)することは少ないと思われますが、気になる場合は、設計者に対象住戸の省エネ性能を確認することをおすすめします」
Nearly ZEH-Mでは、太陽光発電された電力は各住戸に供給されるケースが多いものの、共用部のみに供給し、残りは売電して管理費などに充当するケースもあります。発電した電力がどのように使用されているのかについても、あらかじめ確認しておきましょう。
太陽光発電設備が備わったNearly ZEH-Mでは、一般的なマンションよりも修繕積立金が高くなる可能性があります。購入に際しては、今後の修繕計画がどうなっているのか、太陽光発電設備の更新費用はきちんと見込まれているのかなども確認しておくと安心です。
最後に、これからマンションの購入を検討している人に向けて、尾熨斗さんにアドバイスを伺いました。
「Nearly ZEH-M を含むZEH-Mは、一般的なマンションと比べて初期費用が高くなる場合があります。しかし、太陽光発電による電力が分配され、省エネ性能が高いことで光熱費を抑えられるだけでなく、冬は暖かく夏は涼しい快適な住環境を実現できます。また、住まいの断熱性が向上することで健康維持にもつながり、将来的な医療費の削減が期待できるため、長期的に見ればコスト面でのメリットも大きいでしょう。
さらに、今後新築住宅の基準としてZEH水準が標準化される流れを考慮すると、ZEH-Mを選ぶことは将来的な資産価値を考えてもよい選択肢になると思います」
Nearly ZEH-Mは、断熱等性能等級5を満たし、再エネを除き20%、再エネを加え75%以上100%未満のエネルギー消費削減率を達成したマンション
断熱性能と省エネ性能が高く、光熱費を抑制しつつ快適な住環境で健康的に暮らせる
Nearly ZEH-Mでは、住宅ローン控除の優遇や補助金を受けられる